この記事で比較するのは、現在日本で使われている日本版WAIS-IVと、2024年に刊行された米国版WAIS-5です。日本版WAIS-5の発売状況は、日本版WAIS-5の発売時期で更新しています。
知覚推理は視空間と流動推理に分かれた
最も大きな変更は、日本版WAIS-IVの知覚推理(PRI)に当たる領域が、米国版WAIS-5では視空間(VSI)と流動推理(FRI)の二つの指標になったことです。
| 日本版WAIS-IV | 米国版WAIS-5 | 得点から読み取る内容 |
|---|---|---|
| 言語理解(VCI) | 言語理解(Verbal Comprehension、VCI) | 言葉の知識、概念理解、言語的な推理 |
| 知覚推理(PRI) | 視空間(Visual Spatial、VSI) | 形や位置関係を捉え、空間的に構成する力 |
| 知覚推理(PRI) | 流動推理(Fluid Reasoning、FRI) | 初めて見る関係や規則、数量的な関係を見抜く力 |
| ワーキングメモリー(WMI) | ワーキングメモリー(Working Memory、WMI) | 情報を一時的に保ちながら扱う力 |
| 処理速度(PSI) | 処理速度(Processing Speed、PSI) | 単純な視覚情報を速く正確に処理する力 |
WAIS-IVでは、積木模様・行列推理・パズルの得点を一つのPRIにまとめます。WAIS-5では、積木模様(Block Design)とパズル(Visual Puzzles)をVSI、行列推理(Matrix Reasoning)とバランス(Figure Weights)をFRIとして算出します。
そのためWAIS-IVではPRIの下位検査まで見ていた「視空間の課題と流動推理の課題のどちらが高いか」を、WAIS-5ではVSIとFRIの得点差として直接確認できます。WAIS-5では、総合IQだけでなく、認知能力の内訳をWAIS-IVより細かく読めるようになりました。
この5指標とGc・Gf・Gv・Gwm・Gsの対応は、CHC理論とWAISの関係にまとめています。
視覚性ワーキングメモリーを測る下位検査が加わった
日本版WAIS-IVのWMIは、数唱と算数という聴覚提示の課題から算出します。米国版WAIS-5の主要WMIも、聴覚提示された数字を扱う数整列(Digit Sequencing)と連続数唱(Running Digits)から算出します。
WAIS-5では、それとは別に視覚性ワーキングメモリーを測る二つの下位検査が加わりました。
| 下位検査 | 課題で使う処理 |
|---|---|
| 記号スパン(Symbol Span) | 図形とページ上の位置を一時的に覚える |
| 空間加算(Spatial Addition) | 視空間情報を覚えて操作し、不要な情報を除いて重ね合わせる |
この2検査から視覚性ワーキングメモリー指標(Visual Working Memory Index)を算出します。聴覚で受け取った情報の保持・操作だけでなく、視覚・空間的な情報を扱うワーキングメモリーを別の得点として確認できるようになりました。
FSIQは10検査から7検査へ変わった
FSIQを構成する下位検査は、日本版WAIS-IVの10検査から、米国版WAIS-5の7検査へ変わりました。
| 変更 | 米国版WAIS-5のFSIQにおける下位検査 |
|---|---|
| WAIS-IVから継続 | 類似(Similarities)、単語(Vocabulary)、積木模様(Block Design)、行列推理(Matrix Reasoning)、符号(Coding) |
| 新たにFSIQへ採用 | バランス(Figure Weights) |
| WAIS-IVの数唱から独立して採用 | 数整列(Digit Sequencing) |
| FSIQから外れた | 知識(Information)、パズル(Visual Puzzles)、算数(Arithmetic)、記号探し(Symbol Search) |
数整列(Digit Sequencing)は、WAIS-IVの数唱に含まれていた数整列の課題が独立したものです。バランス(Figure Weights)は、日本版WAIS-IVではPRIの補助検査でしたが、WAIS-5ではFRIの主要検査になりました。
パズル(Visual Puzzles)と記号探し(Symbol Search)は、WAIS-5からなくなったわけではありません。引き続きVSIとPSIの主要検査ですが、FSIQの構成からは外れています。
7検査に減ったのは、FSIQの算出に使う構成です。日本版WAIS-IVは基本検査10と補助検査5、米国版WAIS-5は主要検査10と補助検査10で構成されます。補助検査が5から10に増えたため、検査全体の下位検査数は15から20になりました。20検査すべてを一度に実施するという意味ではなく、目的に応じて補助検査を追加します。
下位検査は追加・分解・廃止された
米国版WAIS-5では、下位検査の追加だけでなく、WAIS-IVにあった課題の分解や廃止、位置づけの変更も行われました。
| 変更 | 下位検査 |
|---|---|
| WAIS-5へ追加 | 連続数唱(Running Digits)、集合関係(Set Relations)、数量呼称速度(Naming Speed Quantity)、記号スパン(Symbol Span)、空間加算(Spatial Addition) |
| 数唱を3検査へ分解 | 数整列(Digit Sequencing)、順唱(Digits Forward)、逆唱(Digits Backward) |
| 廃止 | 絵の完成(Picture Completion)、絵の抹消(Cancellation) |
| 主要検査へ変更 | バランス(Figure Weights) |
| 補助検査へ変更 | 知識(Information)、算数(Arithmetic) |
WAIS-IVの数唱は、順唱・逆唱・数整列を一つの得点にまとめていました。WAIS-5では三つが独立した下位検査になり、数整列(Digit Sequencing)が主要WMIとFSIQ、順唱(Digits Forward)と逆唱(Digits Backward)が補助検査に使われます。新たに加わった5検査は、流動推理、聴覚性・視覚性ワーキングメモリー、処理速度の測定範囲を広げます。
主要指標とは別に、WAIS-5にはGAIを含む15の補助指標(Ancillary Index)があり、そのうち14指標が新設されました。主要5領域をより多くの下位検査で確認するほか、ワーキングメモリーを聴覚と視覚、保持と操作に分けたり、言語や運動反応の負荷を減らして全体能力をまとめたりと、目的に応じた読み分けが増えています。