「頭がいい/悪い」みたいな一言って、現実の困りごと(勉強・仕事・日常)をほとんど説明してくれません。 CHC理論(Cattell–Horn–Carroll)は、そのモヤっとした"知能"を パーツに分解して見える化するための地図です。知能検査(IQテスト)が何を測っているのか、そして「得意・苦手(凸凹)」がなぜ起きるのかを、かなりクリアに説明できる枠組みとして広く使われています。
CHC理論を一言でいうと
「知能=g(全体の地力)+いくつかの"広い能力"+さらに細かい技能」の階層構造として捉える理論です。
ポイントはこれ:
- "総合力(g)"だけでは説明しきれない差がある
- だから、能力を 複数の要素に分けて 強み・弱みを理解する
- その分け方が、ある程度 研究的に整備されている(=共通言語として使える)
3階層モデル:CHCは「ズームできる地図」
CHCはよく「3つの層(strata)」で説明されます。
第3層:g(一般因子)
ざっくり「どの課題にも共通して効いてくる地力」。 ただし、臨床・教育の現場では "gだけ見ても支援設計に直結しにくい" ので、むしろ次の第2層が重視されがちです(ここが"分解して見る"の本丸)。
第2層:広い能力(Broad abilities)
ここがCHCの主役。たとえば次のような能力群です(表記は慣例で "G+略号")。
- Gc(結晶性:知識・言語):語彙、一般知識、言語で整理して理解する力
- Gf(流動性推理):初見のルールを見抜いて推理する力
- Gv(視覚処理):形・空間・配置を扱う力(頭の中で回す/組み立てる等)
- Ga(聴覚処理):音の聞き分け、音韻処理(読み書きとも関連しやすい)
- Gwm / Gsm(ワーキングメモリ/短期記憶):一時的に保持し、操作する力
- Glr(長期記憶・検索):覚える、連想する、思い出す、言葉が出てくる
- Gs(処理速度):単純作業を正確に素早く回す力
- (枠組み上は Gq(数量知識) や Grw(読み書き) などが入ることもあります)
第1層:狭い能力(Narrow abilities)
第2層をさらに細分化した、より具体的な技能群(たとえばGvの中の「空間関係の処理」など)。
どう役に立つ?「できない理由」が説明できるようになる
CHCが強いのは、"成績"ではなく"認知のボトルネック" を言語化できるところです。
例:
- 「話はわかるのに、作業が遅い」 → Gs(処理速度) が相対的に弱いと起きやすい
- 「覚えたつもりなのに、途中で抜ける」 → Gwm(ワーキングメモリ) が負荷で飽和している可能性
- 「文章の説明は苦手だけど、図形は得意」 → GcよりGv/Gfが強い などのプロファイルで説明しやすい
こういう整理ができると、「努力不足」ではなく 設計の問題(課題の出し方・手順の外部化・時間配分) に落とし込めます。
IQテストとの関係:「どの能力を測ってるか」を読むための翻訳機
多くの知能検査は、CHCの広い能力(第2層)をある程度カバーするように構成されています。 なのでCHCは、IQテストを
- 総合点(IQ)だけで終わらせず
- 「どの能力が効いてる点数なのか」
- 「どこがボトルネックになり得るのか」
を読むための"翻訳機"になります。
よくある誤解(ここだけ押さえると事故らない)
- CHCは"診断名"を決める理論ではない → あくまで「認知能力の構造」を説明する枠組み。診断は別の情報(生活上の困難、発達歴など)と総合して行われます。
- "gだけ"でも、"得意不得意だけ"でも不十分 → 全体の地力(g)も、広い能力の凸凹も、両方を見て初めて立体的になります。
まとめ
CHC理論は、知能を「一つの点数」ではなく、いくつかの能力要素に分解して理解するための地図です。 この地図があると、IQテストの結果が「ただの数字」ではなく、強み・弱み・支援設計に繋がる情報として読めるようになります。