算数は口頭提示を中心とする問題を頭の中で解く検査
WAIS-IVの「算数」は、口頭提示を中心とする算数問題を受け取り、必要な情報を頭に置いたまま計算して答える課題です。日本版WAIS-IVでは、「数唱」とともにワーキングメモリー指標(WMI)を構成する基本検査です。
紙に式を書いてから解くのではなく、問題の条件を覚え、何を計算するかを決め、途中結果を保ちながら暗算します。覚えることと考えることを同時に進める点が、算数の大きな特徴です。
算数では保持・数量推理・暗算を制限時間内に行う
算数では、次の処理を一続きに行います。
- 問題の数字と条件を聞き取る
- 必要な情報を短時間保つ
- 数量どうしの関係を捉える
- 足す・引く・掛ける・割るなど、必要な演算を選ぶ
- 途中結果を保ちながら計算する
- 制限時間内に答える
算数の得点は、ワーキングメモリ(Gwm)だけで決まりません。数量的な推理、基礎的な算数知識、暗算の正確さ、注意、時間への対応のすべてが成績に関わります。そのため、同じWMIの数唱とは異なる強みや負荷が表れます。
算数の得点が高い・低い場合
得点が高い場合は、同年齢と比べて、口頭で与えられた数的条件を保ち、数量関係を見抜き、必要な計算を時間内に進めることが得意です。単に計算が速いだけでなく、問題を理解して演算へ変換するところまで含まれます。
得点が低い場合は、実施中の反応から負荷が上がった工程を分けて考えられます。
- 問題の後半を聞く間に、前半の数字や条件が抜ける
- 数字は覚えていても、数量関係や必要な演算を決めにくい
- 解き方は分かっていても、暗算の途中結果を保ちにくい
- 正答へ進めても、制限時間内に答えきれない
数学不安も算数の成績へ影響します。数学不安がWAIS-IVの算数得点を予測した一方、数唱・語音整列とは同じ関係を示さなかった研究があり、数的課題に固有の緊張も結果を読む材料になります。下位検査を一つだけで判断せず、WAIS結果の見方に沿ってWMIやほかの下位検査と合わせて読みます。
日常では、口頭で示された金額や所要時間を見積もる、複数の数的条件から必要量を求める場面に近い負荷が生じます。条件や途中結果をメモに書き留めると、暗算そのものより前に必要な保持負荷を減らせます。
数唱・算数・語音整列の違い
| 下位検査 | 主な材料 | 算数との違い |
|---|---|---|
| 数唱 | 数字 | 文章的な数量関係や計算を使わず、保持と順序操作を行う |
| 算数 | 数量関係を含む問題 | 条件を保ち、演算を選んで計算する |
| 語音整列 | 数字と語音 | 二種類に分類して順序化し、計算は行わない |
算数は、WMIの中で数量推理と計算の影響が最も強く表れる下位検査です。BrainTypeIQの計算スパンも処理と保持を同時に行いますが、計算結果を求める算数とは課題の目的が異なります。
米国版WAIS-5で算数は二次下位検査になった
2024年刊行の米国版WAIS-5でも、Arithmeticは残っています。ただし、WMIの主要検査ではなく、流動性推理領域の二次下位検査へ移りました。
標準WMIはDigit SequencingとRunning Digitsで構成され、標準7下位検査版FSIQにもArithmeticは入りません。一方、数量的推理を詳しく見るQuantitative Reasoning Indexと、流動性推理を広く見るExpanded Fluid IndexにはArithmeticが含まれます。
つまり、米国版WAIS-5で算数の役割がなくなったのではなく、ワーキングメモリーの主要検査から、数量的・流動性推理を補う検査へ位置づけが変わりました。版全体の変更はWAIS-IVとWAIS-5の違いで説明しています。