IQの凹凸と発達障害には関係がある
高い理解力や推理力と、情報の保持、切り替え、時間内の処理、完了の弱さが併存すると、「難しいことはできるのに、日常の課題は安定しない」という発達特性の現れ方を理解しやすくなります。
群平均では、ASDは推理に比べて処理速度が低く、ADHDはワーキングメモリがやや低い傾向があります(WAIS-IV・WISC-Vのメタ分析)。詳しい違いはADHDの認知プロファイルとASDの認知プロファイルで扱っています。
一方、IQの凹凸は一般集団にも多く、WAIS-IVの標準化標本では、4指標の本人内平均から統計的に有意に離れた指標が少なくとも一つある人が70%を超えていました。発達特性との関係で重要なのは凹凸の有無ではなく、その能力差が生活のどの工程を不安定にしているかです。
「難しいことはできるのに日常課題は安定しない」が起きる理由
内容を理解することと、その内容を日常の課題として最後まで実行することには、異なる処理が必要です。
| 工程 | 求められること | 負荷が高いときの表れ方 |
|---|---|---|
| 理解・推理 | 言葉の意味や問題の構造をつかむ | 複雑な説明を理解し、解決策を考えられる |
| 保持・更新 | 目標、条件、途中結果を頭に保つ | 口頭指示や作業途中の条件が抜ける |
| 切り替え・再開 | 中断や変更のあとに元の目標へ戻る | 割り込み後に現在地や次の行動を見失う |
| 処理・出力 | 探す、照合する、書くことを時間内に進める | 内容は分かっていても入力や確認が間に合わない |
| 完了 | 予定を思い出し、確認して提出する | 内容はできていても提出まで終わらない |
難しい企画や試験問題は、一つの課題へ集中し、理解力や推理力を長く使える場合があります。一方、経費精算や学校の提出物には、期限を覚える、必要なものをそろえる、規則を確認する、入力・記入する、提出するといった一連の行動があります。
つまり、難しいことはできるのに簡単なことができないのではありません。簡単に見える日常課題の中に、本人が安定して使いにくい工程が多く含まれています。
WAISの指標は、理解・推理・ワーキングメモリ・処理速度を考える材料になります。着手、切り替え、時間管理、完了には、IQ指標だけでは捉えきれない実行機能も関わります。仕事で止まる工程の分け方は理解できるのに仕事が進まない理由で詳しく説明しています。
高い能力で補えるほど、困難は見えにくくなる
高い理解力や推理力は、負荷の高い工程を補うためにも使われます。聞き逃した内容を文脈から推理する、手順を覚える代わりに毎回仕組みから考え直す、会話を意識的な規則やスクリプトに変える、といった補い方です。
高IQのADHD成人では、実行機能が一般集団の基準では平均範囲でも、同程度の高能力者より低いことがあります。高い能力が困難を消すのではなく、結果を平均範囲まで補うことで、必要な時間や疲労が外から見えにくくなります。時間制限、同時進行、急な変更、疲労が重なると補いきれなくなり、一度できたことを安定して再現できません。高い能力と発達・学習上の困難が互いを隠す状態は2Eでも起こります。
周囲は、得意な場面で見た高い能力を基準に期待します。そのため、難しい内容を理解できる人が提出、持ち物、定型作業で失敗すると、「分かっているのにやらない」「能力はあるのに注意が足りない」と解釈されやすくなります。
口頭指示を書面にすると抜けが減る、締切を中間工程へ分けると完了する、同時進行を止めると正確になるなら、意欲ではなく、その条件で負荷が集中する工程を見直す必要があります。
発達評価では点差より生活上の落差を見る
発達評価では、構造化された検査で示せる能力と、日常で安定して実行できることの落差を見ます。
| 情報 | 分かること |
|---|---|
| WAISなどの知能検査 | 全体的な能力水準、領域ごとの強弱、検査中の時間の使い方や誤り方 |
| 発達歴と複数場面の情報 | 困難がいつから、家庭・学校・仕事のどこで続いているか |
| 適応行動尺度・日常評定・面接 | 実際に安定しない行動、使っている補い方、条件による変化 |
整えられた検査場面で力を出せても、割り込みや複数の締切がある日常では同じように進められないことがあります。そのため、大人の発達障害の評価では、発達歴や複数場面の情報、適応行動、検査中の観察を検査結果と組み合わせます(NICEの診断・評価指針)。
WAISの点差も「15点以上なら大きい」と一律には決めず、実施した検査版の臨界値と基礎率を使います。結果票での確認方法はWAIS結果の見方で扱っています。
IQの凹凸を発達評価で使う意味は、どの能力で補い、どの工程に負荷が集まり、どの条件で補いきれなくなるかを特定することです。そこから、能力を発揮しやすい環境と必要な支援を具体化します。能力差を仕事・会話・学習へつなげる方法は認知プロファイルの読み方で説明しています。